140文字お題１～５
• 01：僕の居場所
• 02：長く一緒にいた影響
• 03：世界の終わりに
• 04：共犯者の笑み
• 05：三時の雨宿り
140文字お題６～10
• 06：唯一の
• 07：君とならできる
• 08：上手な甘やかし方
• 09：この、リア充が
• 10：図書室の猫
140文字お題11～15
• 11：人生で一番
• 12：善意の裏返し
• 13：ご機嫌取りも楽しみのひとつ
• 14：多分上手く笑えていない。
• 15：言うと思った
140文字お題16～20
• 16：君の最期に
• 17：ずるい人
• 18：愛される条件
• 19：おいていかないで
• 20：おさえた首元
140文字お題21～25
• 21：見ないふり、見えないふり
• 22：美しい終わり方
• 23：自分のモノには名前を書きましょう。
• 24：自分だけ知ってればいい
• 25：No thank you
140文字お題26～31
• 26：幸せにはできないけれど
• 27：いえない我儘
• 28：一番厄介な存在
• 29：きっと大丈夫
• 30：受け止めてくれるのはあなただけ
• 31：見えないサイン

26:幸せにはできないけれど

「来年もよろしくな」
氏康が猪口に酒を注いでくる。差し向かいで飲みながら年を越すのは何年目だろう。酒の回った氏康はいつもこの国の民や未来について語った。
風魔の皆も俺の民、皆の幸せを守るのだと呟いていた。我も猪口に酒を注ぎ返しながら思う。この男を幸せにはしてやれぬが、不幸にはせぬと。

27：いえない我儘

少し息抜きがしたい。そう思っていると小太郎がやって来て言う。
「氏康、我と散歩でもせぬか」
城下を巡りまだ帰りたくないと思っている頃、再び言われる。
「子犬よ、もう少し我に付き合え」
昔からそうだった。そして今、抱き合っていた腕を解こうとする前に言われた。
「このまま、もう一度よいか」と。

28：一番厄介な存在

始めは北条の嫡子になど興味はなかった。臆病で優しい子どもなど、乱世では生きてはいけぬ。
だが、北条の後ろ楯なくしては風魔も一党として生きるのは難しい。我とて風魔の長。
見極める為に覗いた部屋には、泣きながら自刃しようとしている子どもがいた。そして今、死なすには惜しい男だと思っている。

29：きっと大丈夫

体に刻まれた向こう傷。兵たちの間では氏康傷なんて呼ばれ賞賛されているらしい。傷なんて威張れるものかよ。むしろ背に傷がない事の方が誇らしい。
武芸に秀でている訳でもない。斬りあう事も好きじゃあない。そんな俺が前だけを向いていられたのは…。
「見ているぞ、氏康」
低い声が俺を見守っている。

30：受け止めてくれるのはあなただけ

「離せ！」
「断る」
「俺の上からどけ！」
「何処に居ようが我の勝手であろう？」
圧し掛かられている体勢を崩そうと全力で暴れた。だが息が切れるほど暴れても小太郎は押し退けられない。そのうちに疲れて眠気が来た。
「どうした」
「…疲れたんだよ」
「寝てしまえ。気分も変わろう」
「ったく、お節介め」

31：見えないサイン

ずっと後悔している事がある。俺は多分…小太郎を一度失った。
風魔の代替わりがどういう仕組みになっているのかは知らない。若かった頃、気付いた時にはもう俺の知っているオバケさんは消えてしまっていた。俺に何も言わず…否、気づかなかっただけかもしれない。
きっと見逃したのだ。見えない合図を。