氏康の手が体を撫でる。
ひた、と手の平で触れてはスルスルと上下に動く温かな感触。
畳の上に寝転がり、我の膝に頭を預けた状態のまま熱心に手を伸ばしているが、いったい何がしたいのやら。止めろ、という視線を送ってみても自分の手元に夢中な子犬は気がつかない。

「氏康、先ほどから何をしている」
「んー？ お前ってくすぐったがらねぇなと思ってよ」

首筋やら脇腹やら、探るように触れていた理由はそこにあったらしい。

「くすぐったくないのでな」
「なんでだよ」
「うぬ程、敏感ではないのであろう」

不満そうな表情を眺めながら無防備になっている脇腹をつつく。
途端にビク、と体が逃げた。

「くすぐってぇよ」
「いたずらを始めたのは、うぬが先であろう？」
「別にいたずらって訳じゃあねぇし…」
「では、なんだというのだ」

続けて顎の線を耳元へ向かって指先でなぞる。
今度こそ氏康は飛び起きて退いた。

「……なんでもねぇよ。意地の悪ぃ奴だな」
「我も暇ではないのでな」

ようやく重石から開放され、腰を上げる。

「心配せずとも明日には戻ってこよう」
「心配なんざしてねぇよ」
「そうか」
「俺のオバケはそんな失敗するような忍びじゃねぇ」
「わかっているのなら、その様な悪戯を仕掛けることもあるまい」

口では否定しておきながら、じっとこちらを見ている瞳がやはり心配なのだと訴えていた。

「変わらぬな」

力強く頭を撫でた手が子ども扱いするな、と振り払われることはなかった。



イタズラな動き

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