「……最低だ」
「気の毒なことよな」
「てめぇ、これっぽちも思っちゃいねぇだろ！」

悔しそうな顔で歯噛みする男は北条氏康。
後に相模の獅子の異名を取る剛の者である。
だが、今の彼は床の住人。布団にうつ伏せ、身動きもままならない。
世間でささやかれている相模のうつけを体現したような有様だ。
氏康が家督を継ぐ以前から傍に居る忍び、風魔小太郎は人の悪い笑みを浮かべながらその姿を眺めていた。

「うぬがギックリ腰を患うことと我と、何か関係があるのか」
「……ねぇよ」
「ならば我を睨むのは筋違いではないのか」
「うるせぇ。目の前にお前しか居ねぇんだから仕方ねぇだろ！うっ…」
「クク…、大声をあげると腰に響くぞ。どれ、薬を塗ってやろう」
「ちっ」

この状況を楽しんでいるとしか思えない小太郎だが、氏康に対する献身ぶりは確かなものだった。
風魔忍軍の長でもある小太郎は、忍びという従属の立場であれど、北条家においてはそれなりの位置を築いている。古くから氏康の傍に居て、なにより氏康自身が重用していることもあり、彼は日頃から小姓や女中などよりも余程近い距離に存在して居た。
小太郎は軽々と氏康の体を抱え、着物の帯を解くと腰部に手を滑らせていく。

「少し冷たいぞ」
「あぁ。ったく、よりにもよって腰痛めるなんてよぉ、俺はまだ爺さんじゃないんだぜ」
「爺でなくとも腰くらい痛める。疲労が溜まっていたのではないのか」
「疲労、ねぇ。そういうならオバケさんにも責任の一端はあるんじゃねぇのかい」
「……氏康は頑張り屋さんだからな」
「う、うるせえ！……ッ痛」

思わず仰け反った痛みに表情を歪め、ぐったりとうつ伏せる。
小太郎は笑いながら手当てを終えると着物を元に戻し、消沈してしまった彼の頭を撫でた。

「不治の病ではない。暫しの間、ゆるりと過ごすことよ」
「退屈だ」
「我が此処に居ろう」
「何かしてくれんのかよ」
「うぬは何がして欲しい」

ゆっくり顔をあげると、思いがけず慈しみに満ちた視線をそこに見つけてしまい、氏康はたじろいだ。

「どうした、氏康」

暫く視線を絡ませた後、氏康の手が小太郎の髪を引く。

「添い寝しろ。見下ろされてるとどうも落ち着かねぇ」
「良かろう。仕方のない子犬よ」



たっぷりとご奉仕します

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