※いわゆる「事後」です。
抵抗がある方は読まない様、お気をつけください。


「おい…」

寝てしまったのかと思っていた氏康に足首を掴まれ、小太郎は視線を落とした。

「どうした」
「まだ行くなよ」

布団を押しのけ、気だるげに体を起こす氏康の着物の合わせから紅い跡が覗いている。翌朝、着替えた時に怒り出すかもしれないな、と思いながら小太郎は腰を下ろした。

「まだ足りぬのか？」
「……馬鹿言うな、これ以上なんかされたら壊れちまう。ただ此処に居ろって言ってるんだ」
「何の為に」
「やるだけやって行っちまうってのかよ」

もたもたと這う様に移動してきた氏康の上半身が胡坐をかいた脚の上に乗ってきた。
逃がさないという意思表示なのだろう。重みと共に、自分よりも高い体温がじわりと染みてくる。
仕方なく髪を撫でてやると、気持ち良さそうに頭を擦り付けてくるが、…素直すぎる行動をしているあたり相当眠いのかもしれない。

「おなごの様なことを言うのだな」
「んなこと言われたことあんのかよ」
「…クク、北条の当主ともあろう者が絡むものだ。安心せよ、我は氏康のものだ」
「ふーん」

髪を梳き、首筋に手を這わせ撫でる。
しっとりとした肌の感触が心地よく、小太郎は先刻までの氏康の痴態を思い出しながら頚動脈が伸びる血管の辺りに指を滑らせていた。
随分と昔から肌を重ねる関係ではあったが、飽きることなく今日まで続いてしまった。歳を重ね、体調を崩しやすくなった氏康を気遣いながらも止められずにいることを不思議に思わずにおれない。
ふと、膝を掴んでいた指先に力が入ったのを感じ視線を落とすと、物言いたげな表情が下から覗いていた。

「どうした？」
「あんまり触るな」
「やはりまだ足りぬのか」
「足りてんのと、やりたくなんのとは別だろ！」

だからこれ以上触るな、と氏康は手を押し退ける。

「そう思うなら我を解放することだ」
「なんか用でもあんのかよ」
「見回りを」
「火急の用じゃねぇなら、それくらいいいだろ」
「うぬの為の見回りなのだぞ」
「どこの誰が攻め込んで来ようが、お前が此処に居たら問題ねぇ」
「……氏康」
「仕方ねぇな。じゃあもういっぺん抱けよ」

それならいいんだろう、と氏康は押し退けた手を掴んで引き寄せた。
着物の合わせから中へ引き込まれた手を抜く気にはなれず、だが言われたようにする気にもなれない。

「壊れるのではなかったか」
「加減しろ」
「無理をするものではない。それに我は加減など出来ぬ」
「ちぇ、もういい。さっさと行っちまえ」

再び手を押し退けると、氏康は不機嫌そうに身を起こした。
払われた手が急激に温もりを失って、取り残される。払われると無性に掴みたくなるのか、布団の中へ潜り込もうとする背中に手を伸ばしていた。

「明日、立てなくとも我を責めぬか？」

抱きとめた背中ごしに振り返った氏康がニヤリと笑う。

「明日の俺の面倒看てくれんならな」



今だけはただの恋人

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